目次
どんな食材か
はちみつは、はちが花から集めた蜜を巣の中で濃縮し酵素で変えたものです。花の蜜はもともと水分が多いのですが、はちが口で受け渡しながら酵素を混ぜ、羽ばたきで乾かして水分を20%以下まで下げます。その低い水分と酸性のために微生物が育ちにくく、常温で長くもちます。糖の大半が果糖とぶどう糖なので、砂糖より甘く感じられます。ボツリヌス菌の芽胞が含まれることがあるため、満1歳未満の赤ちゃんには与えません。
はちみつはこのサイトでは珍しい例です——ほぼ砂糖なのに臨床根拠があります。
まず成分です。 はちみつ100gのうち82.1gが糖類。熱量は304kcal。タンパク質0.3g、脂質0g、ビタミンとミネラルは痕跡程度です。栄養学的にはちみつは砂糖です。
ところが臨床根拠があります。 2018年のコクラン系統的レビューが無作為化試験6件、子ども899人を集め、急性の咳に対するはちみつの効果を評価しました。
- 無処置より咳の頻度を減らしました——平均差−1.05(95% CI −1.48〜−0.62)、中程度の確実性
- プラセボよりも減らしました——平均差−1.62(95% CI −3.02〜−0.22)、中程度の確実性
- デキストロメトルファン(市販の咳止め)とは差がありませんでした——低い確実性
必ず押さえるべきことが2つあります。
第一に、3日が限界です。 3日まではプラセボ・サルブタモールより良かったものの、それを超えると利点がありませんでした。
第二に、このレビューの対象は満12か月から18歳です。 1歳未満はそもそも含まれていません。 ボツリヌス芽胞のためです。下に別記しました。
主な効果
- 中程度の根拠
子どもの急性の咳——コクランの数字そのまま
[1][2]2018年《Cochrane Database of Systematic Reviews》。2010年、2012年、2014年版を更新したものです。
組入れ基準は、満12か月から18歳の子どもの急性の咳について、はちみつを無処置・プラセボ・はちみつ入り咳シロップ・市販の咳止めと比較した無作為化対照試験です。無作為化試験6件、子ども899人が含まれました。
測定方法はおおむね7点リッカート尺度で、点が低いほど咳の症状が軽いことを意味します。
結果です。
比較対象 平均差 95% CI 研究/人数 確実性 無処置 −1.05 −1.48〜−0.62 2件 / 154人 中程度 プラセボ −1.62 −3.02〜−0.22 2件 / 402人 中程度 デキストロメトルファン −0.07 −1.07〜0.94 2件 / 149人 低い ジフェンヒドラミン −0.57 −0.90〜−0.24 1件 / 80人 低い 無処置・プラセボ比較でI² = 0% です。含まれた試験が互いに一貫していたということです。
この数字をどう読むか。
第一に、7点尺度で1点です。 −1.05は7点中1点ほどの変化。意味がないわけではありませんが、咳が消えるという意味でもありません。
第二に、市販の咳止めとは差がありませんでした。 デキストロメトルファン比較で−0.07(信頼区間が0を大きくまたぐ)。これは「はちみつが薬と同じくらい良い」とも「どちらも大したことがない」とも読めます——市販の咳止め自体の根拠も強くありません。
第三に、3日を超えると利点がありません。 レビューはこう記しています——3日まではプラセボやサルブタモールより咳症状の緩和に優れていたが、3日を超えると咳の重症度、わずらわしさ、子どもと親の睡眠への影響において利点がなかった(中程度の確実性)。
大人はどうでしょうか。 2021年《BMJ Evidence-Based Medicine》の系統的レビュー・メタ分析が、上気道感染症の症状緩和に対するはちみつを見ました。通常治療より症状と咳の頻度で優れていたという結果です。ただしここでも含まれた試験の規模と質に限界があります。
正直な要約です——子どもが風邪で咳をするとき、寝る前のはちみつ一さじは根拠のある選択です。 ただし効果は1点ほどで、3日を超えると残らず、咳が長引くならそれは受診が必要な合図です。
- 栄養データ
100g中82.1gが糖類——栄養学的にはちみつは砂糖です
はちみつ100gあたり:
- 熱量304kcal、糖類82.1g、炭水化物82.4g
- タンパク質0.3g、脂質0g、食物繊維0.2g
- カリウム52mg、カルシウム6mg、鉄0.42mg
- ビタミンC 0.5mg、リボフラビン0.038mg、セレン0.8µg
- ナトリウム4mg
82.1gが糖類です。 砂糖(ショ糖)100gの糖類は100gなので、はちみつは砂糖の82%水準。残りはほとんど水です。
はちみつの糖は果糖とブドウ糖です。 砂糖(ショ糖)はこの2つが結合した形で、はちみつではすでに分かれています。だからはちみつのほうが甘く感じます——果糖はショ糖より甘いからです。
大さじ1(21g)に換算すると:
100g 大さじ1(21g) 熱量 304kcal 64kcal 糖類 82.1g 17.2g カリウム 52mg 11mg 鉄 0.42mg 0.09mg 大さじ1で糖類17.2gです。 世界保健機関(WHO)は遊離糖を総熱量の10%未満、できれば5%未満を勧めています。1日2,000kcalなら10%が50g、5%が25g。はちみつ大さじ1がその5%基準の3分の2を使います。
「はちみつは砂糖より良い」はどこまで正しいのか。
- ミネラルがある——あります。大さじ1でカリウム11mg、鉄0.09mg。意味のある量ではありません
- 血糖指数が低い——はちみつのGIは種類によりますが、おおむね砂糖と同程度かやや低い範囲。大きな差ではありません
- 抗酸化成分がある——色が濃いはちみつほどポリフェノールが多い。ただしそれが人の健康上の結果を変えたという根拠は確認されていません
正直な結論です——はちみつは少しだけ良い砂糖です。砂糖をはちみつに替えることが、砂糖を減らすことの代わりにはなりません。
加熱について。 はちみつを煮ると香りが飛び酵素が失活します。ただし酵素が人の体で働くという根拠はないので、加熱を避ける理由は味と香りであって健康ではありません。
結晶化は傷んだのではありません。 ブドウ糖が分離する自然な現象で、40°Cほどの湯に瓶ごと浸ければ戻ります。電子レンジは避けてください——局所的に過熱します。
- 確認されていない
1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけません——乳児ボツリヌス症
この項目は効能ではなく安全についてです。このページで最も重要です。
満12か月未満の赤ちゃんにはちみつを食べさせてはいけません。 少量でも、加熱した料理に入れたものでもいけません。
理由はボツリヌス菌(Clostridium botulinum)の芽胞です。
はちみつにはこの細菌の芽胞が入っていることがあります。芽胞は細菌の休眠状態で、通常の加熱では死にません。 大人や大きな子どもが食べれば、腸内細菌叢が芽胞の発芽を防ぐので問題になりません。
ところが1歳未満の赤ちゃんは腸内細菌叢がまだ定着していません。 芽胞が腸で発芽して毒素を作ることがあり、これが乳児ボツリヌス症です。
症状はこう現れます。
- 便秘(多くは最初の症状)
- 授乳が弱くなり吸う力が落ちる
- 泣き声が弱くなる
- 首がすわらずぐったりする
- まぶたが下がる
- 重い場合は呼吸筋の麻痺
これは緊急事態です。 上の症状が見られたらすぐ受診してください。
よくある質問に答えます。
「加熱すれば大丈夫では?」——いいえ。 ボツリヌス芽胞は耐熱性が強く、家庭の調理温度では壊れません。
「少しでもだめ?」——はい。 安全な量は定められていません。
「はちみつ入りのお菓子やシリアルは?」——1歳未満にははちみつが入った加工食品も避けるのが原則です。製品表示を確認してください。
「いつから大丈夫?」——満12か月(1歳)以降です。上のコクランレビューの対象年齢もここから始まります。
そしてもう1つ。 咳のためにはちみつを探している状況なら、1歳未満の赤ちゃんの咳はそれ自体が受診の対象です。 はちみつの代わりを探すより小児科に行くのが正しい。
上手な食べ方
- 1歳未満の赤ちゃんには絶対に与えないでください。 これがこのページで最も重要な一行です。
- 子どもの咳には寝る前に一さじ。 根拠のある使い方です。ただし3日を超えると利点がありません。
- 大さじ1(21g)に糖類17.2gです。WHOの1日5%基準(25g)の3分の2です。
- 熱いお茶に入れないでください。 香りが飛びます。ぬるくなってから入れてください。
- 結晶化は正常です。 40°Cの湯に瓶ごと浸ければ戻ります。電子レンジは避けてください。
- 色が濃いはちみつほどポリフェノールが多い。 ただし人で確認された効果ではありません。
- 砂糖の代わりにはちみつを使うことが、砂糖を減らすことの代わりにはなりません。
- 糖尿病があるならはちみつも砂糖と同じように数えてください。
評価の読み方
効果ごとに、ヒトを対象とした研究がどこまで裏づけているかを4段階で示します。同じ食材でも項目によって評価は変わります。
- 栄養データ
- 食品成分表や保健機関の資料で確認できる事実です。臨床研究で検証する効能とは性格が異なります。
- 強い根拠
- 複数のランダム化比較試験やメタ分析で一貫して確認されています。
- 中程度の根拠
- ヒト研究はありますが、効果が小さいか結果が割れています。
- 初期の研究
- 細胞・動物研究、または小規模な予備研究の段階です。
- 確認されていない
- よく言われますが、ヒトを対象とした研究では確認されていません。
注意したいこと
- 満12か月未満の乳児には禁忌です。 ボツリヌス芽胞は加熱で壊れず、乳児ボツリヌス症を起こしえます。安全な量はありません。
- 咳に対する利点は3日までです。コクランレビューはそれ以降は利点がなかったと記しています。
- 咳が長引くか息苦しければ受診してください。 はちみつは診断の代わりになりません。
- 100g中82.1gが糖類です。栄養学的にはちみつは砂糖です。
- 糖尿病があるなら血糖に砂糖と同様に働きます。
- ハチ・花粉アレルギーがあるなら、まれに反応が報告されています。
- 「生はちみつのほうが良い」という主張の根拠は確認されていません。 むしろ未加工のはちみつは芽胞の管理が十分でない場合があります。
- グラヤノトキシンを含むはちみつ(ツツジ科の花蜜、いわゆるmad honey)はまれに徐脈・低血圧を起こします。出所の不明な輸入はちみつは避けてください。
この食材でつくる料理
出典
栄養の数値と健康に関する記述が依拠しているデータベースと保健機関です。
- 1Honey for acute cough in children系統的レビューOduwole O, Udoh EE, Oyo-Ita A, Meremikwu MM Cochrane Database of Systematic Reviews 2018PMID 29633783
- 2Effectiveness of honey for symptomatic relief in upper respiratory tract infections: a systematic review and meta-analysisメタ分析Abuelgasim H, Albury C, Lee J BMJ Evidence-Based Medicine 2021PMID 32817011
- 3USDA FoodData Central食品成分データベース
- 4PubMed学術文献
- 5World Health Organization · Healthy diet保健機関
- 6NIH Office of Dietary Supplements保健機関



