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どんな食材か
こしょうはコショウ科のつる性植物の果実を乾かしたものです。インド南西部のマラバル海岸が原産で、かつてヨーロッパがアジア航路を求めた理由の一つでもありました。熟す前の実をまるごと干したものが黒こしょう、熟した実の皮をむいて干したものが白こしょうで、同じ果実です。辛みはとうがらしのカプサイシンではなくピペリンによるものです。香りは揮発するため、使うときに挽き、仕上げに加えるほうがよいです。
学名 Piper nigrum
ターメリックのサプリに「黒こしょう抽出物配合」と書かれているのを見たことがあるでしょう。その根拠はほぼすべて 1998年の論文ひとつ にさかのぼります。
インドのSt. John's Medical Collegeの研究陣が、クルクミン2gを単独で、そしてピペリン20mgと一緒に与えて血中濃度を比べました。結果は 生体利用率2,000%上昇。数字が強烈で27年間引用され続けています。
ところがその試験の規模を知る人はまれです。健康な成人ボランティア10人です。
このページはこしょうを使うなとは言いません。こしょうは味のための香辛料で、その場面では代わりが利きません。ただし 「ピペリンが吸収を2000%上げる」がどんな根拠の上に立っているか は知って使うほうがよい。
主な効果
- 初期の研究
ピペリンがクルクミンの吸収を上げた — 10人の試験で
[1]1998年に《Planta Med》へ載った試験です。ラットと人の両方で見ています。
人の部分: 健康なボランティアにクルクミン2gを単独で与えると血中濃度は 検出されないか非常に低かった。 ピペリン20mgを一緒に与えると投与後0.25〜1時間にずっと高い濃度が出て(1時間でp<0.001)、生体利用率が2,000%上がりました。 副作用の報告はありません。
ラットの部分: クルクミン2g/kg+ピペリン20mg/kgで生体利用率が154%上昇。人の2,000%とは桁が違います。
この試験を読むときに添えるべきこと。
- 参加者10人。 この規模では個人差を見分けられません。
- 血中濃度が上がったのであって、症状がよくなったのではありません。 吸収は中間指標です。
- クルクミン2gはサプリの用量です。 カレー一皿のターメリックとは桁が違う。
- 著者のなかにピペリン抽出物(バイオペリン)を作る会社の所属者がいます。結果が誤りという意味ではありませんが、知って読むべき事実です。
料理でターメリックとこしょうを一緒に使うのは古い調理の習わしで、それ自体はよいことです。ただしそれがこの試験の2,000%を再現するという意味ではありません。
- 確認されていない
そのほかの効能は確立していない
ピペリンには代謝促進、抗炎症、消化改善、抗がんなどの主張があります。大半は試験管と動物の実験です。
人を対象にした試験はあっても参加者数十人規模で、結果が食い違います。病気の結果(心筋梗塞、死亡、がん)を見た大規模ランダム化試験は ありません。
とくによく見る二つを挙げます。
- 「こしょうが代謝を上げて痩せる」 — 細胞・動物実験で熱産生関連の指標が動いた報告はあるものの、人での体重減少は確立していません。
- 「こしょうが消化を助ける」 — ピペリンが消化酵素の分泌を刺激するという動物研究があります。人での臨床的意味は確認されていません。
吸収を上げるというのは両刃です。 ピペリンはクルクミンだけでなく複数の薬の代謝にも関わりうる。サプリの形で高用量ピペリンを摂るなら、飲んでいる薬との相互作用を医療者に確認してください。料理に使う量では問題になりません。
- 栄養データ
栄養表の数字は実際に食べる量ではない
こしょう100gには マンガン12.8mg、鉄9.71mg、カリウム1,330mg、食物繊維25.3g。表だけ見ると立派に見えます。
ところが100gはこしょう一瓶です。 一度に挽く量は0.1〜1gで、そうすると上の数字を100分の1から1000分の1に割ることになります。
実際に使う量 マンガン 鉄 ひとつまみ (0.1g) 0.013 mg 0.01 mg 小さじ1 (2.3g) 0.29 mg 0.22 mg 100g(表の基準) 12.8 mg 9.71 mg こしょうは栄養の供給源ではありません。 香辛料のページでミネラル値を強調する記事が多いけれど、その数字が意味を持つにはこしょうをおかずのように食べねばなりません。
こしょうを使う理由は味です。そして 塩を減らせるという点で実質的な利得があります — 日常のナトリウム摂取を考えれば、こちらのほうがピペリンより確かな効用です。
上手な食べ方
- 食べる直前に挽く。 ピペリンと香り成分は揮発性で、挽き置きの粉は時間とともに香りが抜けます。
- 火を止めてから入れる。 長く加熱すると香りが飛びます。
- 塩の代わりにこしょうで味を立てると ナトリウムを減らすのに実際に役立ちます。
- ターメリックと一緒に使うのはよい習わしです。 ただし上の試験の数字を期待しないこと。
- 粒を買って挽くほうが 香りが長持ちします。密閉して暗い場所に。
- こしょうは脂溶性の成分が多く、油と一緒に使うと香りがよく広がります。
評価の読み方
効果ごとに、ヒトを対象とした研究がどこまで裏づけているかを4段階で示します。同じ食材でも項目によって評価は変わります。
- 栄養データ
- 食品成分表や保健機関の資料で確認できる事実です。臨床研究で検証する効能とは性格が異なります。
- 強い根拠
- 複数のランダム化比較試験やメタ分析で一貫して確認されています。
- 中程度の根拠
- ヒト研究はありますが、効果が小さいか結果が割れています。
- 初期の研究
- 細胞・動物研究、または小規模な予備研究の段階です。
- 確認されていない
- よく言われますが、ヒトを対象とした研究では確認されていません。
注意したいこと
- 高用量ピペリンのサプリは薬と相互作用しうる。 ピペリンは薬物代謝酵素に影響します。飲んでいる薬があれば医療者と相談を。料理に使う量は該当しません。
- 逆流性食道炎や胃炎があるなら 多量のこしょうが症状を刺激することがあります。
- クルクミン自体の効能 は別の問題です。吸収が上がっても臨床効果が確立していなければ意味は限られます。
- ターメリックのサプリによる肝障害の症例報告があります。高用量サプリには慎重に。
- こしょうアレルギーはまれですが存在します。
この食材でつくる料理
出典
栄養の数値と健康に関する記述が依拠しているデータベースと保健機関です。



