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どんな食材か
バターは牛乳の脂肪を集めて固めたものです。クリームを強くかき混ぜると脂肪の粒どうしがくっついて塊になり、水分(バターミルク)が出ていきます。その塊がバターです。脂質が80%以上で、残りは水分と乳固形分です。発酵させたクリームから作ると香りの濃い発酵バターになり、加熱して水分と乳固形分を取り除くと澄ましバター(ギー)になって発煙点が上がります。においを吸いやすいので密閉して保存します。
バターは長く「避けるべき食品」の代表で、ここ数年は逆方向に流行しました。どちらも言い過ぎです。
事実はこうです。バターの飽和脂肪は100gに50.5g で食品のなかでも非常に高い。そして 飽和脂肪を減らすと心血管事故が減ることは、ランダム化試験で確認された事実 です。
同時に、乳脂肪を観察した大規模研究は、予想ほど明確な害を示しませんでした。 このずれがバター論争の実体です。
このページはどちらの側にも立たず、二つの根拠を並べて置きます。実用的な結論は最後にあります — バターをなくす必要はなく、数えない理由もありません。
主な効果
- 強い根拠
飽和脂肪50.5g — 減らせば心血管事故が17%減る
[1]これは効能ではなく、バターを読むための基準線です。
2020年のコクランレビューは 24か月以上追跡したランダム化対照試験15件 を集め、飽和脂肪を減らした側と普段どおり食べた側を比べました。
結果は 心血管複合事故の17%減少(相対リスク0.83、95%信頼区間0.70〜0.98)。56人が減らすと1件の事故を防ぐ計算です。
但し書きが二つ。
- 総死亡と心血管死には有意な減少がありませんでした。
- 効果は 何に置き換えたか に依存しました。多価不飽和脂肪や全粒穀物に替えた側で利益が大きく、砂糖や精製炭水化物に替えた側では利益がありませんでした。
二つ目が実戦で効いてきます。バターを抜いた場所に白いパンや砂糖が入ると、上の試験で見た利益は現れませんでした。
- 中程度の根拠
乳脂肪の観察根拠は、飽和脂肪の理論ほど単純ではない
[2]バターの話が割れる地点です。
飽和脂肪の理論どおりなら、乳脂肪を多く食べる集団で心血管疾患がはっきり増えるはずです。複数の大規模前向きコホートで、その関係は一貫して現れませんでした。 乳製品の種類によって方向が割れ、一部の研究では発酵乳製品(ヨーグルト、チーズ)がむしろ低いリスクと関連しました。
理由の説明はいくつもあります — 乳脂肪球膜の構造、カルシウムが脂肪吸収に及ぼす影響、発酵の過程、そして 「何と一緒に食べるか」。どれも確定していません。
重要な限界をつけねばなりません。 これらは観察研究です。乳製品を多く食べる人と少なく食べる人は、ほかの多くの点でも違います。ランダム化ではないので因果は言えません。
またバターは発酵乳製品ではありません。上の研究で バター自体が有利に出たわけではありません。 乳製品全体の絵が単純ではない、というところまでがこの項目の言えることです。
- 栄養データ
ビタミンAとKはあるが、そのために食べる量ではない
バター100gに ビタミンA 684µg RAE、ビタミンE 2.32mg、ビタミンK 7µg。
数字だけ見るとビタミンAが成人推奨量(男性750µg)に近い。ところが 100gはバター一塊です。 実際に使う大さじ1杯(14g)なら96µgで推奨量の13%。
同じ量のビタミンAを得る別の道がずっと安い — にんじん1本(β-カロテン換算で約500µg RAE、25kcal)、ほうれん草ひとつかみ。バター大さじ1杯は100kcalで飽和脂肪7.1gです。
グラスフェッドバターはビタミンK2とオメガ3が多いという話があります。組成の差は実在しますが絶対量が小さい。グラスフェッドバター大さじ1杯のオメガ3は0.05g程度で、さば一切れ(2g以上)とは比べものになりません。組成の差が健康結果の差につながるという臨床根拠はありません。
上手な食べ方
- バターが味を決める場所で使う。 パン、ペイストリー、ソースの仕上げ。その場面では代替品が追いつきません。
- 日常の炒め油をバターに替えない。 炒め・焼きにはキャノーラ油やオリーブ油が数字の上でよい。
- 減らすなら不飽和の油か全粒穀物へ。 砂糖・白いパンに替えると、上のコクラン分析では利益が消えました。
- 大さじ1杯を数える習慣。 パンに目分量で塗ると2〜3杯が簡単に入ります。
- 発煙点が150℃ほどと低い。 強火には澄ましバター(ギー)か他の油を。
- 有塩バターは100gにナトリウムが600mg前後。製菓では無塩バターを使い、塩を別に入れるほうが調節しやすい。
評価の読み方
効果ごとに、ヒトを対象とした研究がどこまで裏づけているかを4段階で示します。同じ食材でも項目によって評価は変わります。
- 栄養データ
- 食品成分表や保健機関の資料で確認できる事実です。臨床研究で検証する効能とは性格が異なります。
- 強い根拠
- 複数のランダム化比較試験やメタ分析で一貫して確認されています。
- 中程度の根拠
- ヒト研究はありますが、効果が小さいか結果が割れています。
- 初期の研究
- 細胞・動物研究、または小規模な予備研究の段階です。
- 確認されていない
- よく言われますが、ヒトを対象とした研究では確認されていません。
注意したいこと
- 大さじ1杯で100kcal、飽和脂肪7.1g。 成人の1日の飽和脂肪上限(2,000kcalで約22g)の3分の1です。
- コレステロールが100gに215mg。 食事性コレステロールの影響は以前の考えより小さいとされますが、個人差が大きい。
- 脂質異常症があるなら、基本の脂肪をバターにしないでください。
- 乳糖不耐症があってもバターは乳糖が非常に少なく(100gに0.1g以下)たいてい大丈夫です。ただし 牛乳たんぱくアレルギー なら微量のカゼインが問題になりえます。
- 「バターコーヒー」で熱量を足すのは、体重減少とは逆方向です。
- グラスフェッドバターの優位は組成の差であって、臨床結果で確認されてはいません。
この食材でつくる料理
出典
栄養の数値と健康に関する記述が依拠しているデータベースと保健機関です。
- 1Reduction in saturated fat intake for cardiovascular diseaseメタ分析Hooper L, et al. Cochrane Database Syst Rev 2020PMID 32827219
- 2Dairy Product Consumption and Cardiovascular Health: A Systematic Review and Meta-analysis of Prospective Cohort Studiesメタ分析Chen Z, et al. Adv Nutr 2022PMID 34550320
- 3USDA FoodData Central食品成分データベース
- 4World Health Organization · Healthy diet保健機関
- 5European Food Safety Authority (EFSA)保健機関
- 6PubMed学術文献



