目次
どんな食材か
ココナッツオイルはやしの実の白い果肉から搾った油です。熱帯アジアと太平洋地域が産地です。植物性の油でありながら飽和脂肪が80%を超えるため、24℃ ほどを下回ると白く固まり、それより高いと透明に溶けます。この点が他の植物油と最も違うところです。乾かした果肉から搾って精製したものは香りがなく、生の果肉から搾った未精製(バージン)はココナッツの香りが残ります。発煙点は高くないので、高温の揚げ物には向きません。
学名 Cocos nucifera
ココナッツオイルは2010年代に「スーパーフード」として売られました。中鎖脂肪酸(MCT)だから代謝が違う、飽和脂肪だが大丈夫だという話です。
臨床試験が積み上がると、その主張は崩れました。
2020年に《Circulation》に載ったメタ分析は、16件の試験を集めてココナッツオイルを他の油と直接比べました。結果は LDLコレステロール10.47mg/dLの上昇。方向は割れませんでした。
飽和脂肪の量を見れば驚くことでもありません。100g中82.5gが飽和脂肪 です。バター(50.5g)より多く、オリーブ油(13.8g)の6倍。
このページはココナッツオイルを使うなとは言いません。香りと食感のために使う理由はあります。ただし 健康のために使う理由は、現在の根拠にはありません。
主な効果
- 強い根拠
LDLコレステロールを10.5mg/dL上げる
[1]これは効能ではなく確認された悪影響です。 最初に書くのは、いちばん検索される問いがこれだからです。
2020年のメタ分析は、ココナッツオイルと他の油を比べた臨床試験16件を集めました。非熱帯植物油(オリーブ油、キャノーラ油など)と比べ、ココナッツオイルは:
- LDLコレステロール +10.47mg/dL(95%信頼区間 3.01〜17.94)
- 総コレステロール +14.69mg/dL
- HDLコレステロール +4.00mg/dL
- 中性脂肪には有意差なし
HDLも上がるから「相殺される」という主張があります。しかし 薬でHDLを上げた試験(ナイアシンのAIM-HIGH、HPS2-THRIVE、CETP阻害薬)は心血管事故を減らせませんでした。 HDLの数値上昇そのものが利益だという前提は、もはや保ちにくい。
炎症指標と体脂肪には、ココナッツオイルと比較対象の油の間に有意差はありませんでした。
- 強い根拠
飽和脂肪を減らすと心血管事故が減る
[2]ココナッツオイル問題の背景です。
2020年のコクランレビューは 24か月以上追跡したランダム化対照試験15件 を集め、飽和脂肪を減らした側と普段どおり食べた側を比べました。
結果は 心血管複合事故の17%減少(相対リスク0.83、95%信頼区間0.70〜0.98)。56人が飽和脂肪を減らすと1件の事故を防ぐ計算です(NNT 56)。
重要な但し書きが二つあります。
- 総死亡と心血管死には有意な減少がありませんでした。 事故は減りましたが、死亡は統計的に確認されていません。
- 効果は 何に置き換えたか に依存しました。多価不飽和脂肪や全粒穀物に替えた側で利益が大きく、砂糖や精製炭水化物に替えた側では利益が見えませんでした。
つまり「ココナッツオイルを抜け」ではなく 「ココナッツオイルを何に替えるか」 が問いです。
- 確認されていない
「MCTだから違う」という主張はココナッツオイルにはあまり当てはまらない
MCT(中鎖脂肪酸)は炭素6〜12個の脂肪酸で、肝臓へ直行して速く代謝されます。ここまでは事実です。
問題はココナッツオイルの組成です。ココナッツオイルの飽和脂肪の約半分がラウリン酸(C12)。 ラウリン酸は分類上MCTの境界にありますが、代謝経路は長鎖脂肪酸にずっと近い — 大半がカイロミクロンを経てリンパへ行きます。実際にLDLを上げるのも主にラウリン酸とミリスチン酸です。
MCTオイル研究(主にC8・C10の分離製品)をココナッツオイルに移し替えるのが、この誤解の出発点です。サプリ売り場のMCTオイルとスーパーのココナッツオイルは組成の違う製品です。
体重減少、アルツハイマー、甲状腺機能についての主張は、人を対象とした試験で確立していません。エクストラバージン(非精製)が精製品より優れるという結果レベルの根拠もありません。
上手な食べ方
- 香りと食感が目的のときに使う。 カレー、東南アジア料理、一部の製菓ではココナッツオイルの代わりが利きません。その場面では使うのが正解です。
- 日常調理の基本の油にはしない。 炒め・焼きの基本はキャノーラ油やオリーブ油のほうが数字の上でよい。
- 替えるなら不飽和の油へ。 砂糖や精製炭水化物に替えると、上のコクラン分析では利益が消えました。
- コーヒーに入れるのは脂肪を足す行為です。 大さじ1杯で125kcal、飽和脂肪11.6g。
- 発煙点は非精製175℃、精製230℃ほどと製品によって大きく違います。
評価の読み方
効果ごとに、ヒトを対象とした研究がどこまで裏づけているかを4段階で示します。同じ食材でも項目によって評価は変わります。
- 栄養データ
- 食品成分表や保健機関の資料で確認できる事実です。臨床研究で検証する効能とは性格が異なります。
- 強い根拠
- 複数のランダム化比較試験やメタ分析で一貫して確認されています。
- 中程度の根拠
- ヒト研究はありますが、効果が小さいか結果が割れています。
- 初期の研究
- 細胞・動物研究、または小規模な予備研究の段階です。
- 確認されていない
- よく言われますが、ヒトを対象とした研究では確認されていません。
注意したいこと
- 大さじ1杯に飽和脂肪11.6g。 成人の1日上限(総エネルギーの10%=2,000kcalで約22g)の半分が一さじに入っています。
- LDL上昇は確認された結果です。 脂質異常症や心血管リスクが高い場合、基本の油として使わないでください。
- 体重減少効果は確立していません。 「痩せる油」は根拠のない宣伝文句です。
- アルツハイマー・認知症への効果は確立していません。 小規模研究だけです。
- 肌に塗ることと食べることは別の話です。 このページは食べる場合を扱います。
- ココナッツは米国で木の実アレルゲンとして表示されますが、実際の交差反応はまれです。ナッツアレルギーがある場合は医療者に相談を。
お悩み別の根拠
この食材でつくる料理
出典
栄養の数値と健康に関する記述が依拠しているデータベースと保健機関です。
- 1The Effect of Coconut Oil Consumption on Cardiovascular Risk Factors: A Systematic Review and Meta-Analysis of Clinical Trialsメタ分析Neelakantan N, et al. Circulation 2020PMID 31928080
- 2Reduction in saturated fat intake for cardiovascular diseaseメタ分析Hooper L, et al. Cochrane Database Syst Rev 2020PMID 32827219
- 3USDA FoodData Central食品成分データベース
- 4World Health Organization · Healthy diet保健機関
- 5European Food Safety Authority (EFSA)保健機関
- 6PubMed学術文献



